人間の俺からすれば異形としか例えようがない怪異たちの海の中でも、小狛の白髪と紅白の衣装は映える。
 栄華を極める商店街の雑踏を容易く潜り抜けていく小狛。一方の俺は、その背を見失うことがないよう、忙しく視線で追いながら大股でついていく。
 小狛には真白が常に傍についているから安全面の特別な心配は必要ないだろう。だが、以前迷子になられて散々捜した挙句に見つからないまま日が暮れて、宿に戻るとけろっとした顔で座っていたりしたので、迷子になられると困るのは変わりないのだ。
 そうこう考えて一瞬目を閉じ眉間を押さえた隙に、彼の娘を見失ってしまった。
 慌てて辺りを見回す。高い身長は便利だが、こういうときに限って白の頭は見つからない。全くあいつはと頭で悪態を吐きつつ口では周りに謝りを入れ、人の流れに逆らって人捜しを続行する。
 通りを鼠のようにうろちょろする俺のすぐ横を、祭の山車のような巨大な怪異が通った。ごとんごとんと腹に響く轟音をたてながら木の塊が周囲の人々を散らしていくのを見て、まさかと思いつつ山車怪異の抉った道を確認する。
 幸か不幸か、そこに小狛はいた。
 伸されてぺしゃんこ、という想像した最悪の事態ではなかったものの、彼女の肩に陣取る真白の顔は険しく、当人は痛い痛いとべそをかいている。

「大丈夫か」

 駆け寄って屈み、目視で怪我を確認する。多少の汚れはあれど重症らしきものは見当たらない。

「あのな、さっきのおっきいのの角に足の小指ぶつけたんよ! えげつないやろぉ」

 どうやらずいぶん器用に接触事故を起こしたらしかった。本人に動かさせて確認すると、骨が折れただどうだの問題でもなく、ただ単にぶつけただけのよう。無事であったことは喜ぶべきだろうが、心臓に悪いことこの上ない。
 俺が呆れて溜め息を吐いて体を起こすと、小狛は「ほんまに痛いのに」とぶうぶう文句を言った。
 また先ほどのように人の流れに沿って歩き出すと、小狛が俺の袖を引く。
 足の小指の痛みに参ってしまったのだろうか、先を急ぐ気を削がれたようで。頬を膨らませたまま、俺の手を握ってきた。
 こうして手を繋いでしまえば迷子にはならない。歩幅を小狛に合わせて狭めて横を見ると、彼女はどこか安心した様子だった。

「迷子予防に毎回こうしてもいいんだが、どう思う」
「時々でええ」
「そうか」