カラン、というドアベルの音が、骨董品と本の海に吸い込まれていった。
 この店に慣れぬがゆえのぎこちなさを残しながらも、大地はドアを潜る。潜り終えたときにはその身は紙と木の匂いに取り囲まれ、ぎこちなさも落ち着きに取って代わるのだが。
 柔らかい橙色をした灯りを頭上から浴びつつ、彼はぐるりと周囲を見渡した。ドア付近にアンティークの机と椅子が一組、机の上にはレジスターに地球儀に筆記用具、その周囲には本棚と本棚と本棚。この店の主人と助手の姿は見当たらない。
 奥にいるのだろうかと、コツンと踵を鳴らして歩みを進めたそのとき。

「大地。いらっしゃいませ」

 店の奥の一際大きな本棚の陰から、迎えの声。ひょこりと顔を覗かせたのは、緩くウェーブのかかったホワイトブロンドの長髪とゴシックロリータ調の衣装を揺らす、碧い目の少女だった。
 大地が見知った、この店の助手である少年ではない。しかし、目の色と髪の色が同じ。以前会ったときよりワントーン高い気がするが、声も同じだ。
 彼女は浮き足立った様子で、それでいて上品に大地に駆け寄った。

「玄?」

 正体を確かめるように名前を呼ぶにも、間の抜けた声が出る。お前数日前は男じゃなかったか? 髪は肩に付かないくらい短くて、シャツにベストにスラックスって格好じゃなかったか? と。
 そんな大地の様子を見てか、少女はクスリといたずらっぽく笑みを零す。ああ、どうやら笑い方も同じようだった。

「最近、かわいくなりまして」

 この店の助手――自立して喋る人形は、主人の気まぐれで少年にも少女にもなるらしい。