武骨でいて、白く、どこか泡沫のような儚さのある手。そんな彼の手に自分の手を徐に重ね合わせ、逃がしてなるものかと深く指を絡ませる。俺の額にはじわじわと汗が滲み、頬は上気し、二人が向かい合うその場の温度を上昇させるようだった。
 お互いの息遣いが聞こえるほど静かな時が流れた後、ちらりと彼の様子を盗み見すると、普段自分になど向けられることのない熱を孕んだ視線が容赦なくこちらを射抜く。まともに目を合わせた俺は、忌々しきことに心の臓が跳ね上がってしまった。
 慌てて他所へと視線を泳がせると、小馬鹿にしたような笑い声が聞こえて、益々彼に調子を奪われるようで苛立つ。

「強がりはやめたらどうだ」

 全くの余裕である彼は、焦燥を隠しきれていないであろうこちらに、上からものを言う。低く重圧感のある声は、抵抗を許さない。湖面のように凪いだ双眸は愉快そうに細められ、こちらの胸中を見透かし、これから先にある行為を促した。
 悔しいことに彼の言う通りではある。ここまで来てしまっては、強がりや躊躇などは勿論、後戻りはできない。最早自分には、進むという選択肢しか残されていないのだ。
 俺は覚悟を決めて、彼と絡んだままの指にぎゅうと力を入れた。

「……あっ」
「ふん、たわいない」

 瞬きをする間に、自分の親指は彼の親指の下へ押さえ込まれ、敗北。

「つーか、何で俺は夜隆さんと指相撲してんすかね……」

 大分真剣に、大分本気で遊んでいた彼は、勝利を掌握したことで些か機嫌が良い。「さぁな」と言う声色は、勝負の最中よりどこか明るかった。
 何にせよ、俺はこの人には敵いはしないのだ。